曽我廼家のしばゐを見たり。老いづける兄をしひたぐるを見て おもふなり このすぐ次に「年たけてたゞ二人のみ、残りはらからゆゑに、思はざらめや」と続く。大阪という連作十首の、おわりから二首目の歌である。 郷里の家に帰って、とかく親族といさかうことがあるのを歎いた何首かの歌にまじって、曽我廼家の喜劇の歌が、きわめて適切に位置している。 しらべれば、その出し物の題名をわかるかも知れないが、舞台で、五郎の老いたる兄が、弟やその身内から冷遇される場面を見たが、先生にとって、実感のつよすぎる思いだったのであろう。 多分、最後に、みんなが後悔して、「兄さん、すまなんだなァ」というようなことで、笑い合う。一堺漁人という筆名で五郎が自分で脚本を書き、自分で演じたのだが、いつも一種の教訓めいた落ちがついているのが、臭みだった。 しかし、郷土の役者という意外に、五郎のあのいかにも肉体自身が「大阪」の特色をさらけ出して見せる芸風を、先生は歌舞伎の延若(先代)の芸風とともに、こよなく愛した。 「延若と五郎が共演できないものかね」と、先生は何度も何度も、未練とでも呼びたい口ぶりで、つぶやいて居られた。 戸板康二「折口先生の芝居の歌」『短歌増刊』四八年十一月 戸板はこの作品がなんであるかを記していないが、おそらく『石津の里』であろう。
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戸板康二「折口先生の芝居の歌」『短歌増刊』
曽我廼家のしばゐを見たり。老いづける兄をしひたぐるを見て おもふなり
このすぐ次に「年たけてたゞ二人のみ、残りはらからゆゑに、思はざらめや」と続く。大阪という連作十首の、おわりから二首目の歌である。
郷里の家に帰って、とかく親族といさかうことがあるのを歎いた何首かの歌にまじって、曽我廼家の喜劇の歌が、きわめて適切に位置している。
しらべれば、その出し物の題名をわかるかも知れないが、舞台で、五郎の老いたる兄が、弟やその身内から冷遇される場面を見たが、先生にとって、実感のつよすぎる思いだったのであろう。
多分、最後に、みんなが後悔して、「兄さん、すまなんだなァ」というようなことで、笑い合う。一堺漁人という筆名で五郎が自分で脚本を書き、自分で演じたのだが、いつも一種の教訓めいた落ちがついているのが、臭みだった。
しかし、郷土の役者という意外に、五郎のあのいかにも肉体自身が「大阪」の特色をさらけ出して見せる芸風を、先生は歌舞伎の延若(先代)の芸風とともに、こよなく愛した。
「延若と五郎が共演できないものかね」と、先生は何度も何度も、未練とでも呼びたい口ぶりで、つぶやいて居られた。
戸板康二「折口先生の芝居の歌」『短歌増刊』四八年十一月
戸板はこの作品がなんであるかを記していないが、おそらく『石津の里』であろう。