『王将』(一九四八年・大映)に登場する曽我廼家十郎の紋

『王将』(一九四八年・大映)の中で、坂田三吉の天王寺の長屋住まいのときの知人、ワンタン屋・新蔵(民芸の三島雅夫が演じている)が引く屋台に、曾我廼家十郎の紋が入っている。舞台は一九〇五年という設定なので、曾我廼家五郎十郎の喜劇が同年二月のデビュー以降人気を集めはじめた頃であるから、これはありうることではあるが、相当奇抜な設定だ。

原作では、夜泣きうどん屋の新吉が、「成駒屋のイ菱の紋を染めぬいた屋台車を引き、迷惑そうに引っ張られて」登場する(『王将』『北条秀司戯曲選集一』一一頁)。舞台は大阪でもあり、また定紋が「イ菱」であることからこの成駒屋は初代中村鴈治郎である。贔屓の歌舞伎役者の紋をつけることはありそうだが、新人の曾我廼家十郎の紋をつけるというのは、原作に手を加えた人間が十郎に相当入れ込んでいた証だろう。

『王将』(一九六二年・東映)では、新蔵(谷晃)が冒頭で引いている屋台はびっくりやという文字が染め抜かれているだけであり、紋はない。あとで新蔵は背中に紋の入った半纏を着て登場するが、これも十郎の役者紋ではないようだ。新吉ではなく新蔵というところのみ、大映版を踏襲している。

この変更をおこなったのは、脚本を自ら手がけた伊藤大輔なのか。それとも、美術がその場の咄嗟の思いつきで変えてしまったのか。それを知るためには、辰巳柳太郎が主演、入江名人を島田正吾が演じている『王将一代』(一九五五年・新東宝)を見なくてはいけない。ここでは、新蔵ないし新吉ではなく、蕎麦屋新やんという役名になっている。

This entry was posted in 日本近代演劇 and tagged . Bookmark the permalink. Trackbacks are closed, but you can post a comment.

Post a Comment

Your email is never published nor shared. Required fields are marked *

*
*

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>