『時事新報』第一四〇一一号(一九二二年七月十七日夕刊第十一面)
写真:「家康と黒本尊」昨日芝増上寺の野外劇
緑蔭で聖劇
美しき千圓が喜ばせた
市社會局主催の商工從業員慰勞
高橋きよ女が親の遺言を重んじ三十年間苦心して貯めた千圓のお金で義務を果たした美しい心の結晶が基となつて昨十六日午後三時から芝増上寺境内で、東京市社會局主催の商工從業員慰安會が催された、お店の小僧さんや若衆、お女中さんなど數千五百名の外に、一般見物人や來賓には市會議員なども打ち混じつて總數三千餘名、山内の青葉隱れに_^時蝉雨【しぐぜみれ】^_の音も涼しい緑蔭で、三時間ばかりページエントや太神樂、近衞單樂隊、さては高聲蓄音機などに興を寄せて樂い集ひに暮れる日を惜んだ、會は先づ正三時に社會局本間保護課長の辭に初まつて、一同陸軍々樂隊の伴奏で君が代を伴奏し、終つて後藤市長は「皆さんは平常刻苦して主人の爲めに精出して居られるが偉人は困難の中に育つ諸君の前途は輝かしい」と挨拶を述べて一同を喜ばせた、前田助役も講話をした、近衞單樂隊は絶えず合間々々に奏樂したが、其日の呼物は早大藝術會同人のページエント劇「黒本尊と家康公」二場と舞踊劇「お竹大日如來」一場とであつた。これが爲め坪内博士は朝から詰かけて出演の世話を見てゐたが役者には増上寺の眞の坊さんが混つたり舞踊劇には市吏員や増上寺關係者ら小女四十名ばかり集めて稚子に仕立てゝ舞はせたのなど美しく大喝采であつた、劇は何れも盆に因んで佛の有難い事を説いた劇ではあつたが、坪内博士の指導だけに面白く一同大滿足のやうに見えた、舞踊劇には近衞音樂隊の伴奏で増上寺の僧侶が和讃を唱へ舞臺では見られぬ大仕掛であつた、斯くて午後六時半後藤市長の發聲で萬歳を三唱して散會した
なお、『時事新報』第一四〇一〇号附録(一九二二年七月十六日第二面 日曜実報?第七十三号)には、特集「藪入りには見遁せぬ淺草研究」として、権田保之助「民衆を惹つける淺草の魅力 この不思議な力の正體はそこの全體の空氣である」および仲木貞一「淺草を中心に渦卷く觀客と藝人の解剖」という二つの寄稿記事を掲載している。
Your email is never published nor shared. Required fields are marked *
You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>
<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>
Δ
『時事新報』第一四〇一一号(一九二二年七月十七日夕刊第十一面)
『時事新報』第一四〇一一号(一九二二年七月十七日夕刊第十一面)
写真:「家康と黒本尊」昨日芝増上寺の野外劇
緑蔭で聖劇
美しき千圓が喜ばせた
市社會局主催の商工從業員慰勞
高橋きよ女が親の遺言を重んじ三十年間苦心して貯めた千圓のお金で義務を果たした美しい心の結晶が基となつて昨十六日午後三時から芝増上寺境内で、東京市社會局主催の商工從業員慰安會が催された、お店の小僧さんや若衆、お女中さんなど數千五百名の外に、一般見物人や來賓には市會議員なども打ち混じつて總數三千餘名、山内の青葉隱れに_^時蝉雨【しぐぜみれ】^_の音も涼しい緑蔭で、三時間ばかりページエントや太神樂、近衞單樂隊、さては高聲蓄音機などに興を寄せて樂い集ひに暮れる日を惜んだ、會は先づ正三時に社會局本間保護課長の辭に初まつて、一同陸軍々樂隊の伴奏で君が代を伴奏し、終つて後藤市長は「皆さんは平常刻苦して主人の爲めに精出して居られるが偉人は困難の中に育つ諸君の前途は輝かしい」と挨拶を述べて一同を喜ばせた、前田助役も講話をした、近衞單樂隊は絶えず合間々々に奏樂したが、其日の呼物は早大藝術會同人のページエント劇「黒本尊と家康公」二場と舞踊劇「お竹大日如來」一場とであつた。これが爲め坪内博士は朝から詰かけて出演の世話を見てゐたが役者には増上寺の眞の坊さんが混つたり舞踊劇には市吏員や増上寺關係者ら小女四十名ばかり集めて稚子に仕立てゝ舞はせたのなど美しく大喝采であつた、劇は何れも盆に因んで佛の有難い事を説いた劇ではあつたが、坪内博士の指導だけに面白く一同大滿足のやうに見えた、舞踊劇には近衞音樂隊の伴奏で増上寺の僧侶が和讃を唱へ舞臺では見られぬ大仕掛であつた、斯くて午後六時半後藤市長の發聲で萬歳を三唱して散會した
なお、『時事新報』第一四〇一〇号附録(一九二二年七月十六日第二面 日曜実報?第七十三号)には、特集「藪入りには見遁せぬ淺草研究」として、権田保之助「民衆を惹つける淺草の魅力 この不思議な力の正體はそこの全體の空氣である」および仲木貞一「淺草を中心に渦卷く觀客と藝人の解剖」という二つの寄稿記事を掲載している。