「魅惑の美声:近代日本における声と情動に関わる言説構築過程の学際的研究」(サントリー文化財団研究助成「学問の未来を拓く」:研究代表者・日比野啓)は、以下の通り第二回研究会をおこないます。近現代において、人間の「声」はどのように聞かれ、受けとめられてきたのか。理論の整理や事例研究をつみかさねるなかで、現在を照らし返す情動の歴史について議論します。参加ご希望の方は、研究会連絡先までご連絡ください。
日時:5月29日(日) 14:00-17:40
場所:成蹊大学10号館2階第一中会議室
14:00 「対話を聴くことの不自然さについて」勝田悠紀(東京大学大学院人文社会系研究科)
日本の演劇文化には「対話」の伝統がないとよく言われます。西洋との比較で考えたとき、日本には極端に言うと人と人との対話を聞くことそのものが不自然に感じられるところがあるわけです。その影響は現在でも政治や共同体形成から物語にいたるまで様々な領域で感じ取ることができます。今日のフィクションにおける言語のはたらきを考えたとき、そうしたことはどういう意味を持つかということに興味を抱いてきました。当日もこの問いを具体的な事例を見ながら考えたいと思います。
かつたゆうき。専門は英文学。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程在籍。最近の論考に「距離、あるいはフィクションの恥ずかしさについて」(『エクリヲvol.13』)など。
15:20 休憩
15:30 「美声の聞こえ方」阿部公彦(東京大学文学部)
「美声」とはどのようなものだろう。本研究会では、身体の科学として美声をとらえるアプローチに加え、社会的歴史的な文脈からの考察も行われるが、本発表では「美声の聞こえ方」という視点をとり、美声が発生する場、状況、それを「聞く人」との関係性などについて考察してみたい。
まずは切り口として、文学テクストの中の「美声の状況」を以下のように場合分けしてみた。これらを通覧すると美声を耳にするにあたってどのような「心の構造」が機能しているかが見えてくるのではないかと考える。そのあたり、報告の中では実例を参照しながら考察を深めたい。
1.たまたま出会う。
2.漏れ聞こえる
3.静かにささやいてくる。
4.懐かしい
5.圧倒的で頼もしい。
6.静けさを作り出す。
7.呼びかけてくる。
8.後ろから話しかけてくる。
9.記憶の中から聞こえる。
10.物理的な音として聞こえる。
11. 妄想の中で聞こえる。
12. うるさい。老婆的な世話焼きの声として聞こえる。
13. 高圧的に命令してくる。
14. 大きい声である。
あべまさひこ。1966年生まれ。東京大学文学部教授。英米文学研究。文芸評論。著書は『英詩のわかり方』(研究社)、『小説的思考のススメ』(東京大学出版会)、『幼さという戦略』(朝日選書)、『名作をいじる』(立東舎)、『史上最悪の英語政策』(ひつじ書房)、『100分de名著 夏目漱石スペシャル』(NHK出版)、『理想のリスニング 「人間的モヤモヤ」を聞きとる英語の世界』(東京大学出版会)、『英文学教授が教えたがる名作の英語』(文藝春秋)など啓蒙書のほか、『文学を〈凝視する〉』(岩波書店 サントリー学芸賞受賞)、『善意と悪意の英文学史』(東京大学出版会)、『病んだ言葉 癒やす言葉 生きる言葉』(青土社)など。『フランク・オコナー短篇集』、マラマッド『魔法の樽 他十二編』(ともに岩波文庫)など翻訳もある。オフィシャルウェブサイト
16:50 休憩
17:00 全体討議
第2回研究会連絡先:日比野啓(hibinoあっとまーくfh.seikei.ac.jp)