合衆国における「労働」の文化表象:2015年度第3回研究会のお知らせ

成蹊大学アジア太平洋研究センター・共同研究プロジェクト:合衆国における『労働』の文化表象(プロジェクトリーダー:下河辺美知子、研究分担者:日比野啓・権田健二・岡田泰平)では、講師に後藤千織(青山学院大学女子短期大学)氏を迎え、2015年度第3回研究会を以下の要領で実施します。

日時:2016年3月20日(日)16:00-18:00

場所:成蹊大学10号館2階・第二中会議室

チャリティ・ガール:20世紀初頭の労働とジェンダー

本報告は、20世紀初頭のアメリカ合衆国における売買春(性売買)をめぐる論争から、労働観の変化を考察する。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、アメリカ合衆国は急速な工業化・都市化・移民増加を遂げる。この時期に、都市部で工場労働者やデパートの販売員などとして働く未婚女性が増加し、彼女たちのセクシュアリティをいかに統制するのかが社会的関心事となっていく。これらの若い女性労働者たちは、家族とともに暮らすこともあれば、親元を離れてアパートや下宿屋で一人暮らしをしたり、友人と暮らすこともあった。都市部で暮らす労働者階級女子たちは、自らの手で稼ぎ出した賃金を、自身や家族の生計ために使用するだけではなく、都市の商業施設が提供する娯楽を謳歌するために使用し始める。低賃金で暮らす労働者階級女子たちが、流行のスタイルを身にまとい、都市の娯楽を享受するために生み出したが、「トリーティングtreating」と呼ばれる戦略である。劇場・ダンスホール・遊園地への入場料、レストランでの食事代などの娯楽費用を男性におごってもらう代わりに、女性が男性に様々なレベルの性的な見返りを与える慣習である。彼女たちは、性的な行為(性交とは限らない)に対する金銭の支払いは受け付けないため、「チャリティ・ガール」と呼ばれるようになった。中産階級の社会改革家から見れば、チャリティ・ガールたちの行動は限りなく「売春」に近いのだが、労働者階級女子たちはトリーティングで金銭を直接受け取らないことを根拠に、自らと「売春婦」との間に線引きをした。

チャリティ・ガールの登場は、売春婦を貧困や人身売買の犠牲者と見なしてきた、アメリカの従来のセクシュアリティ観を揺さぶっていく。本報告は、20世紀初頭のアメリカにおける「売春」の定義の変容が、労働運動や社会改革運動に与えた影響を検証する。

後藤千織(ごとうちおり)青山学院大学女子短期大学専任講師。専門は、アメリカ社会史(移民、ジェンダー)。主な論文に、「家族扶養をめぐるジェンダー・ポリティクス:20世紀初頭の福祉・司法と貧困家庭の関係」『アメリカ研究』43号(2009年)、「20世紀初頭のアメリカにおける福祉政策と男性労働者 の規律化:扶養義務不履行・家族遺棄の裁判事例から」『ジェンダー史学』6号(2010年)など。

どなたにも無料でご参加いただけますが、会場整理の都合上、開催日前日までにhibinoあっとまーくfh.seikei.ac.jpにお名前と(あれば)ご所属をお書きのうえ、お越しの旨をお知らせ下さい。

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