かたばみ座の財産

和田 かたばみ座の活動を振り返って、一座として得意にしていた出し物は?

守 かたばみ座のお客さんは御殿物といって、きらびやかな打ち掛けなんか着たもの、これは喜びますね。お金がかかっていますしね。世話物だけ出していたんじゃ、こっちは楽だけど喜ばれないんですよね。それこそ『壺坂』なんか二人だけでやれる。それで衣裳も簡単でしょう。こういうのは安く済むんですよ。ところがそれだけ出していたら、結局うけないから、だから大きなものをやらなきゃならならない。

だから、かたばみ座では衣裳はお金がないのに無理をして根岸衣裳というのを使ったんですね。根岸のおやじというのは、とても芝居をよく知っていて、たいがいどんな衣裳も心得ていたんです。

和田 大歌舞伎であまり出ない演目で、かたばみ座らしかったものは。

守 正式な外題を思い出せないのだけど、黙阿弥の世話物で、「鈴木主水という侍は」という歌が出てくる芝居があったんですよね。そのときに台本がなかったので、竹若はたいがい覚えているんだけど、そのときは台本があったらいいというので、河竹先生の家に借りに行きました。その芝居の中で、その歌が入るんですよ。瞽女が歌っていたという歌が、「鈴木主水いう侍が」何とかというそれが入るんです。

神山 『鈴木主水』という芝居がありますよね。それでしょう。

菊地 観客としての思い出だけど『老後の政岡』を、新之助がやるんですよ。そうしたら口を開けたら金歯がぴかっと光ってね。そういうことは平気なのね。今の役者で金歯をぴかぴかする人はいないでしょう。

神山 竹若、鶴蔵というのは人柄もよかったですか。

守 仲よかったですね。あれは同じ彦十郎門下の兄弟弟子で十二~十三歳のときから知っているんですよ。竹馬の友。

彦十郎というのは、大変うまかった人らしいんですよね。その芸にあこがれて入門をした。鶴蔵は抜群に切符を売ることがうまかった。それで鶴蔵が死んじゃったら、かたばみ座は大痛手で。

神山 そういうこともありますよね。

守 踊りの師匠をしたせいもあるけど、王子あたりでも二百~三百枚の切符は鶴蔵が一生懸命売った。だから竹若の芝居がいいといっても、切符を売る人にはやっぱり遠慮しなきゃいけない。だからそこは難しいところで。

神山 二時間の約束が二時間半にもなりまして、貴重な楽しい話をありがとうございました。